ハンザキヤノン。キヤノン標準型。近江屋写真用品から同社ブランド名で発売された、日本で最初に市販された量産型35mmカメラです。
発売開始年は1935年暮れ、もしくは1936年初頭が有力とされています。製造元は精機光学研究所、後のキヤノン。ライカを範としていますが、八角ボディ、全面のコマ数計など独自の機構を採用。距離計窓とは別にあるファインダーは、通称「ビックリ函」と呼ばれるポップアップ式。
生産台数は約1,000台と言われており、前期型と後期型に大別されますが、本品はレンズマウント番号が269番台の前期型。特徴として、黒マスクのニッコール50mm F3.5が装着、マウントに「Nippon Kogaku Tokyo」の刻印、軍艦部に「Hansa」刻印が確認できます。
この標準型(ハンザキヤノン)のごく初期の数台には、砂型鋳造も確認されているそうですが、その後すぐに製造方法が移行し、本品はダイカストボディです。
装着レンズはニッコール5cm F3.5、3群4枚のテッサータイプ。設計は日本光学の砂山角野氏。レンズマウントは独自の内3爪バヨネット式マウントで、残念ながら交換レンズが発売されることはありませんでした。
レンズマウントに刻印されている番号は、日本光学工業の部品管理番号で、底蓋内側に彫られているのがボディ番号となります(本品にはこの後のセイキキヤノン・最新型の底蓋が付いており、ボディ番号の記載はありません)。
2019年に重要科学技術史資料として、国立科学博物館に登録されています。カメラ史においても重要な1台。
セイキキヤノン用の底蓋には、サビや擦れ傷が多く見られます。また、軍艦部のエッジ、巻き上げノブの上部、マウント周辺部に一部メッキ落ちが確認できますが、その他の大部分は光沢の強いメッキが輝いています。
2024年9月にシャッター幕交換を含むOH済。各部の作動快調です。付属の黒マスク旧型ニッコール50ミリも銘板部分に経年変化を感じますが、年代を考慮すればまずまずの外観です。
レンズ中玉には、清掃で取り切れなかった僅かなクモリやガラスのヤケが見られます。レンジファインダーはプリズムの劣化により多少コントラストが低下していますが、倍率のあるレンジファインダーの恩恵もあってピント合わせは無理なく行えます。ポップアップ式ファインダー(ビックリ函)は見え味良好です。
また、グッタペルカは当時のオリジナルから近年の革に交換されています。フルオリジナルではありませんが、OH済みで実用出来るハンザキャノンです。
珍品。