Canon J 戦後型。J II型とも呼ばれます。Jはジュニアの略で、距離計やスローシャッターが省かれたモデル名。
戦前、戦中に作られた、普及型(J型)の部品を使い、戦後に組み立てられました。1945年(昭和20年)12月 〜 翌1946年11月までの短期間の製造です。昭和8年〜22年までの14年間続いた、精機光学キヤノンの時代の終盤に当たります。
キヤノンカメラミュージアムの情報によると、1945年に生産されたJ型は、わずか3台のみ。残りは翌1946年製造のようです。
外観上の特徴は、ファインダーカバーの形状などが従来の普及型と異なっている点。また、ボディ前面にスローダイヤルの跡がみられるタイプ。
マウントはキャノン独自のJマウント。径は39mmですが、ライカ・スクリューマウントとはネジ山のピッチが異なり、微妙ながら互換性はありません。ファインダーは単独ガリレイ式。
ちなみにこのJII、終戦直後の物資欠乏時期に製造されたので、貼り革が厚紙だった個体もあるそうです。世界中で愛される現在のキヤノンの隆盛をみるとにわかに信じがたいですが、胸の熱くなる話です。
シリアル番号の先頭の8は捨て番となっています。末広がりを念じて8が振られたそうです。キヤノンJ 戦後型の製造台数は、約500台と言われており、一説によるとその番号帯は80xx〜86xx。
本品は823xで、ちょうど中程のシリアル番号です。
J 戦後型に用意されたレンズは、Canon自社製のセイキセレナーと日本光学のニッコールの2つがありますが、本品には日本光学から供給された、テッサー型のNikkor 50mm f3.5が装着されています。ノンコート。距離表記はmeter。日本光学による民生用初のニッコール名のレンズで、設計は砂山角野氏。
上述の通り、ライカ互換のレンズではありませんが、途中までライカスクリューに入るので、ライカM10-Pに装着し近接域のみ試写してみました。本個体は、ガラスコンディションも良く、非常にシャープな線を結びます。
終戦間もない時期、非常に限られた資源と資金の中で何とかやりくりしながら製造された機種だけに、多少のヤレは感じますが、JII型としてはなかなか綺麗な一台。
トップカバーの巻き戻しノブ周辺、レリーズボタン周りにメッキの傷み、底蓋には擦れ傷が見られます。本品の貼り革は厚紙ではありませんが、物資不足の戦後間もない頃の革で、やや傷みが見られます。
2024年にレンズとボディのOH済。入念な整備により、各部操作感良く仕上がりました。レンズの後玉にはごく薄い拭き傷が1本見られますが、クモリもなくスカッと抜けたガラスです。ニッコール 50mm f3.5としては、大変に良いコンディション。
つるりとした丸みを帯びた、純正レンズキャップが付属します。
戦後日本のカメラ史においても重要な一台。コレクションにもどうぞ。
参考文献:カメラレビュー別冊・クラシックカメラ専科 3、4、7、31号他