ゴコク I型。理研光学工業(現リコー)製。ベストフィルムを使用する3x4cm判カメラ。フォーカルプレーン・シャッターを採用し、外観デザインもライカを意識したつくりです。昭和14年(1939年)頃の製造で、ネーミングは「護国」に由来。軍国主義一色の当時の空気を反映しています。
シリアル番号は1064。レンズ固定式のゴコク I型の生産は1,500台程度と言われており、シリアル番号は1000番台からスタートしているようですので、本品は64番目に当たる初期の個体と思われます。
付属のレンズはエルマーに似たデザインのゴコク・アナスチグマット 50mm f3.5。3群3枚のトリプレット構成。
但し、先端径は37mmなのでエルマーよりちょっと大きめです。距離指標はメートル表記。ダブルヘリコイドによる直進式の凝った造り。最短撮影距離は50cmですが、目測式カメラですので、実際に撮影するにはメジャーが必須でしょう。
残念ながらRKK刻印の純正キャップは付属しません。日本カメラ史に残る一台。珍品。
ボディは底蓋や沈胴部などに軽微な使用感が見られます。また、レンズの銘板周りには擦り傷や歪みが見られます。他、多少のメッキの劣化が見られますが、戦中のカメラであることを考えると十分に良好なコンディションでしょう。
惜しむらくは、貼り革が非オリジナルに張り替えられている点ですが、雰囲気を損なわないものがあてがわれています。
2024年にオーバーホール済。シャッター機構修理、幕交換、ファインダー清掃など一通りの整備を施しています。
設計にやや難があり、適正な整備がなされていても撮影時にはトラブルが発生しがちなカメラとしても知られています。スプロケットの無い摩擦ローラーを使用しており、フィルム送りの正確さに欠ける点や、フィルムが巻き太る分の調整機構が皆無な点などの問題を抱えています。このためコマ間隔が不均等になったり、フィルムが緩んだりする問題が当時から多発していたようです。
撮影に臨む際には、こういったトラブルをご理解頂いた上でお楽しみ(?)頂ければ幸いです。
ちなみに対策が施された後継モデルの名前は、なんと「リコール I型」(笑)。スペリングこそRicohlなのですが、響きはrecallと同じ。当時は思いも寄らなかったのでしょう。