ニッコール-P.C 8.5cm f2、ライカ・スクリューマウントの初期型。製造は1949年頃。シリアル番号903x。300本ほどが製造されたという最初期801のシリーズに続く、第2ロットの捨て番903シリーズ。本品はその3番目に製造(!!)された個体です。
903番台の初期の個体には、ヘリコイドが回転タイプではなく、直進カムの個体が10本程度存在すると言われていますが、本品が正にその一本。また、後の85mm f2とはヘリコイドリングの形状などが異なります。レア中のレアピース。
連合国軍占領下の日本での製造で、レンズ鏡胴のマウント近くの背面に小さく小さくMade In Occupied Japan(占領下の日本)の刻印がなされています(通称 MIOJ)。当時製造に携わった方々の心情が伝わってくるようです。
銘板はTokyo刻印。レンズの設計は3群5枚構成のゾナー型。feet表記。レンズ単体で実測546gとズッシリしています。
D.D.ダンカン氏が朝鮮戦争で使用し、絶賛を得た高名なレンズ。日本製レンズの優秀さを世界に広めた立役者とも呼ぶべき存在です。
ごく軽微な擦れ傷が見られる程度で、全体的に良好な外観です。大切に大切にされてきたことが伺えます。
2025年6月にフルOH済。当初、各所がガチガチに固着しており、分解整備にはかなりの困難が伴いました。また、業者さんによればこの個体はヘリコイドなどの構造が特殊で、後年のモデルに比べかなりの手作り感が見られるとのことでした。試行錯誤しながら組み立てを行っていたのでしょうか。
当店デモ用ライカMでは、絞り開放付近では前ピン傾向が感じられましたが、1〜2段絞れば被写界深度に収まります。稀少な個体につき敢えてピント調整は行わず、オリジナルのままとしております。
前玉に軽微な拭き傷、各面のコーティングに僅かな劣化が見られますが、クモリ無くスカッと抜けています。本来の描写が味わえる個体でしょう。
初期の1ピース構造の純正フード、初期の金属製のかぶせフードキャップ、ずしりと重い後キャップ、革ケースが付属します。コレクションに相応しい一本。珍品。